僕は、そして僕たちはどう生きるのか 梨木香歩 その1
・そうか。人生ってそういうことなのか。
いくらいろいろ計画してたって待ったなしなんだ。
いつまでもあるもんじゃないんだ。
ぼくはそんな当たり前のことが、なんかこのときものすごくリアルに感じられた。
「米谷さんと山を歩いた時、僕は思い切って
『あの洞穴で<どう生きるか>って考えてたって聞いたんですけど』って話しかけた。
そしたら、米谷さんは「戦時中だからね。自分の生き方を考える、ということは
戦争のことを考えるってことと切り離せなかったんだね。
でも人間って弱いものだから、集団の中にいるとつい、
皆と同じ行動を取ったり、同じように考えがちになる。
あそこで、たった1人きりになって、初めて純粋に、僕はどう考えるのか、
これからどう生きるのか、って考えられるようになった。
そしたら、次に、じゃあ、僕たちは、って考えられるようになったんだ』って
答えた。
~中略
「彼が洞窟の中で考えていたことだけど、こんなことも言ってた。
群れのために、滅私奉公というか、自分の命まで簡単に、道具のように投げ出すことは
アリやハチでもやる。つまり、生物は、昆虫レベルでこそ、そういうこと得意なんだ。
動物は、人間は、もっと進化した、『群れのために』できる行動が
あるはずじゃないかって・・・」