赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア (白川美也子)1
・トラウマ記憶とは、言葉にならない記憶です。
トラウマ体験のその瞬間に、DNAからm-RNAが放出され、
たんぱく質が合成され、五感、感情、思考、身体状態など
すべてを含む体験がまるごと、記憶のネットワークとして
固定されるのです。これが「冷凍保存」というたとえの
より現実に近い姿です。そして凍ったものが溶けていくためには
その「まるごとの記憶」が言葉として語られ、物語記憶という形で
整理されることが必要になります。
記憶は常に改変されています。語るたびに細部が変化したり
焦点が移ったり、自分にとっての意味が変わったりすることが
起こり得ます。トラウマ記憶も安心できる場で安全な相手に向けて
何度も語っているうちに、それにまつわる感情や感覚などが
整理されて、今を侵食することのない過去の物語記憶になって
いくのです。だから、話したり書いたりして表現することは
とても大切です。